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2009年 08月 06日

ブラームスはお好きですか?(2)

”情緒的で甘美”、良いではないか。そう聴こえるのだから、そう演奏すれば良い。これも一つの意見ですね。冒頭の「シ~ソ」にうっすらとポルタメントを入れてみたりしてね。ちょっとゆっくり入ると言うのもありますな。シを少し長くたっぷりとして息を合わせるとかね。色々あります。016.gif

でも第1主題を覆ているのは、相当な緊張感ではないかと思うのです。最初から落下と跳躍の連続。しかも、第1楽章はソナタ形式だけど、第1主題は少しずつ形を変えて第2主題や展開部にも出て来る。第1楽章全編にこの第1主題が変奏されてちりばめられている。のみならず、全楽章、曲全体を暗示している、と言うのが私の見解です。譜面だけ見ていてもあまりわからないんだけれど、実際に演奏した時に、どこかでこの第1主題が鳴り続けている。これは間違いない印象なのですが、そう思ってスコアを精査すると、実際にそうなってる。賑やかな、第3楽章でさえ第1主題が隠されている。034.gif

この第1主題に、何かを差し挟む余地なんてないんじゃないかな。まあ、大雑把でちゃんとした言い方ではないけれど、この交響曲を大きな変奏曲にみたてると、冒頭からの8小節間は変奏曲のテーマと同じで、ここで変なことをすると後の重厚長大な(何しろ4楽章まであるのだ)変奏部分でテーマが想起されにくくなってしまう。かなり、観念的な言い方だけど、そう言うこと。そう思うのです。楽譜に書いてある以上の何かをして、敢えて、この曲の表裏に染込まれている第1主題との繋がりを薄めてしまう程の何かの効果と言うのはちょっと考えにくい。繋がりを解いて別の物を目指すと言うのなら話しは別だけれど、それでは音泉でこの曲をやる必要はないですからね。きちんと指揮者のいるところでやれば良い。だから、情緒的ではいけないのです。014.gif

さて、”情緒的で甘美”はいけない、と決めつけてしまうとかえって、茶々を入れたくなる。管楽器ですな。「dolce」と書いてある。ド~ルチェェェ、である。しかし、やりにくいドルチェですね。スラースタッカートにご丁寧に休符まで入っている。甘味料たっぷりのべとべとと甘ったるいドルチェではなさそうだけど、単純に機能的な後打ちでもない。池辺晋一郎さんが「ブラームスの音符たち」で指摘しているように、これはカノンですな。不完全なカノン。1小節1和音を優先する為に不完全に終わるカノン。しかし、大事なカノンです。ルネッサンス期に多くの技法が生み出されたカノンは、ブラームスの尊敬するバッハが傑作を沢山書いていますね。そのカノンの技法を冒頭に持って来た。しかも、和声の進行を優先する為に不完全に終わるカノンを、です。dolceはこのカノンを意識したものであることはまちがいありません。つまり、後追いの旋律ですね。後打ちではありません。です。管楽器の方(フルート、クラリネット、ファゴット)はこのことをちゃんと意識しておかないと、味気ないことになりますね。015.gif

そして、和声。カノンに優位する和声。これは主にヴィオラとチェロによって分散和音で示されますが1小節ごとの展開です。8小節間に8つの異なる和声。ただし、2番ホルンとコントラバスは4小節間ペダルです。後半は受け継いだ4番ホルンとバスが3度、4度、4度、4度と下がるので1回転半して主音の下属調になりますね。この大旅行を終えてすっかり元に戻ろうかと言うところで戻らない。バイオリンのCの音に導かれてもう一つ別の旅に出かけます。重々しく苦渋の旅ですね。これを、たったの8小節間でやってのける。しかも、表情は緊張しまくりのP(ピアノ)です。まあ、若干の抑揚はつくでしょうが、基本的には音量の変化はありません。009.gif

ヴァイオリンとコントラバスは何をする余裕もなく、ひたすら、緊張感を維持しなくてはなりませんね。ともかく緊張感を持続します。ヴィオラ、チェロはどうすべきか?第1は音程。1小節ごとにきちんと響きが変わって行かなければならない。アルペジオだから難しいですね。もう一つ、私なら、このオーケストレーションで有り勝ちな運びのギクシャクや緩慢が起こらないように「歌(dolce)」でカバーしますね。ヴィオラ、チェロの上向形分散和音ではヴィオラは喰って入って上で緩んでちょうど良い感じではないでしょうかね。どうだろう?006.gif

木管楽器も2拍目は気持喰う感じでちょうど良い。これが、如何にも喰ってる喰ってる、ってわかるようでは駄目なので、歌を用いいる訳です。しかも、歌っていることも感じさせないような歌でないと駄目です。001.gif

これらは相当に積極的なアプローチですよね。たった8小節だけですが、相当疲れる。神経使って、色々考えて、アンテナ張り巡らせて、とても大切なものを、何事もないように提示する。ただあるがままに。そうすることで、このテーマが後々様々に現れる中で、徐々に人の心に染込んでゆく。曲を聴いている人は、始めは「む!」くらいの感心だけど聴き進めて行くほどに、それぞれのイマジネーションが広がって、後から思うに「情緒的で甘美」な印象となる。このテーマは、最初から”情緒的で甘美”なのではなく、そんな仕掛けの結果として生じる訳です。そのためにも、”情緒的で甘美”な始まりをしてはいけないと思います。どうでしょう?041.gif
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by bassbassbassyy | 2009-08-06 22:16